あらまし

フュトルは文法に対する思索を深める目的で個人言語、実験言語として作られているものです。

フュトルは人間が話す用途でありながら、(筆者の知識が及ぶ限りの)自然言語にはあまり見られないような特徴を備えています。 これらは文法のあり方や表現のあり方に対するオルタナティブはどこまで、そしてどのように可能かを考察する試みの一環として取り入れられたものです。

複雑な形態音韻論

多くの言語では音韻と形態素が厳密には対応せず、何かしらの文法に基づく音韻変化を説明する枠組み(深層形と呼ばれたりもする)が必要ですが、フュトルでは特に、音素が原則として2つの形態音素の結合形として解釈され、この形態音素を基に形態論が組み立てられるため、形態音韻論的操作が重要な役割を果たします。
このメカニズムに加え、フュトルでは形態音素の「連音」や音位転換を積極的に使用するため、同じ単語の規則的な変化形が音韻レベルでは一見全く関連のない形に変化することも特徴です。

述語項構造の一般化

通常の言語では動詞(としての役割を付与された語)が中心となって述語を表現し、なおかつその動詞が意味と項構造を支配する形式が一般的です。 しかし、動詞に必要な項の構成はしばしば意味と相関するため、この2つを別個に記憶するのは無駄が多いとも言えます。
フュトルでは、最小限のスキーマを持ったいくつかの「文型」を定義し、項構造と述語性を示す役割をこの文型に転嫁させて、構成要素をすべて項として扱います。 事態は特定の文型かその組み合わせによって表されます。

品詞区分のない内容語

フュトルでは、述語機能を少数の汎用的な文型にくくり出した帰結として、内容語に語彙レベルでの品詞(語類)の区別を立てる必要がなくなりました(あえて言えば、すべて名詞に近いといえる)。 文の表す意味は、文型と、文型の構成要素である各単語の語彙的な意味、その文型内での位置によって理解されます。
なお、フュトルには文法を補助する機能語も多数存在し、これらは単語ごとに独自の多様な機能を提供します。 しかし、機能語が内容語と句を形成して新しい品詞や文法関係を定義できるというものではないため、内容語に品詞の区別がないことに変わりはありません。

豊富な汎用文脈指示語

フュトルの文型は典型的な自然言語の節、または句に相当する情報を表すことしかできません。 文章の連続性、結束性を保つためには一致や照応を表す機能語に頼ります。 そのため、フュトルは2系統各8種類の「汎用的」な文脈指示語の体系を持ちます。
これらは「これ」「あれ」などのように直示や特定の含意と結びつくことなく、純粋に話者が指定した語句または状態を記憶するためのスロットのようなものです。 話者は必然的に指示語を駆使して文章を組み立てていくことになり、指示語はフュトルが持つ、語用論的に独特な連語・表現形態の一端も担います。

具象性に還元する語法

(書きかけ)


その他の類型的に特筆すべき特徴は以下の通りです。

  • 子音53(以上)、母音8、半母音4と比較的大きい音素目録
  • 口笛を使う子音がある
  • やや複雑なピッチアクセント、または声調型のアクセント
  • 接中辞と音位転換による概ね屈折的な形態論
  • 時空間・モダリティ・格(?)のパラダイムを持つ
  • 疑問詞がなく、疑問は法によって表される
  • 構文が述語性を担うため基本語順や格組織タイプが確定できない
  • 明確な主要部・従属部の区別を持たない
  • 一致や接語による照応を多用する統語論
  • 数詞は16進・12進併用
モユネ分類
EXP PHI REA GEN SON SER TOL

言語名について

この言語名「フュトル」のフュトル自身による発音はɥ̊ø˥.tʰʌʐ˧であり、ラテン文字転写では Yhëhtozr (Yheuhtozr) と表記されます。

この言語の漢字による略称は嘘語とします。 「嘘」は現代日本語で「偽りの言葉」を表し、架空の言語を表すのにふさわしいことや、「うそ」の原義が(「うそぶく」などに残るように)「口笛」の意味であるため、特徴的な口笛子音を連想させること、さらに「嘘」字の中国語諸方言(中古音以来)における意味や発音も概ねそれに近しいことが理由です。