形態音韻論の構造

構成と解決

まず、フュトルの文法を理解するうえで重要なポイントは、音素の列が直接形態論に対応づけられるのではないということです。 音韻論的要素は一度形態音韻論のレイヤーに変換され、その並びが形態論レベルのパラダイムに対応します。

たいていの自然言語においても形態音韻論の介在は多かれ少なかれ想定しなければなりませんが、フュトルの場合は音素とは非常に異なった体系を有しているのが特徴です。 このため、語形変化によって音形が一見全く関連のない形に変化するようにみえます。

フュトルの音素と形態音素の変換メカニズムは概ね以下のような図式になります。

     yh    ë    ---- 音素
    /  \ /  \
   A    L    Y  ---- 音母

上の図では、「音」という意味の語を表す形態音素の列 A-L-Y と音素列 yhë の対応関係を示しています。 音母というのは、形態音素としての抽象的な分節音のことです。 フュトルの実現された各音素は、このように隣り合う2つの音母の合間(区間)に生成される概念としてとらえられます。 形態音素列から音素列を生成することを構成、その逆を復元と呼びます。 音韻論レベルの単位から形態音韻論レベルの単位を復元することが、フュトルの文法上重要な一ステップです。

音素と形態音素の間の変換は規則によって決まっており、原則として前後の環境によって予測できるものですが、一意に決まらず文脈から推定しなければならない場合もあります。 具体的な規則は個別の節で説明します。

音母と区間

発音の節で見た通り、フュトルの音素目録はかなり大きな部類に属しますが、基となる音母の数はわずかに8つであり、前後の音母の組み合わせにより多様な音形を生成しています。 音母に挟まれた区間は実際に音素が構成される場所として、形態音韻論的に重要な概念です。

それぞれの区間は以下のカテゴリを有しています。

環境
当該区間に子音を構成するか、母音を構成するか
音価
前後の音母によって定まる、構成されるべき子音/母音
拗音
母音環境のみ
構成されるべき半母音の値
位置
母音環境のみ
母音の交替に影響する
正位(無標)・前進後退のいずれか
長さ
母音環境のみ
(無標)・超長のいずれか(※実際には調値と母音に影響する)
高さ
母音環境のみ
区間の内在的な調値
(無標)・のいずれか

これらのカテゴリの値によって、区間が表現する音形が決まります。 前後の音母によって自動的に決定されるものを一次的な値、修飾と呼ばれる操作によって与えられるものを二次的な値と呼びます。

環境は前の区間の値とは逆の値を取ります。 先頭の音節がどちらになるかは、形態論の指定によります。